夏バテには太極拳の行気

夏バテだけではありませんが、簡単な簡化24式太極拳で行う行気は、健康増進にとても効果的です。

大まかな経絡(けいらく)の流れを知ることは、太極拳の勢(せい=動くときに起こる自然な勢(いきお)い)や勁道(けいどう)(けいどう=勁(けい)という自然な力の流れ道)を整える技法に役立ちます。

 行気(ぎょうき)では、足のうねり、手のうねり、胴のうねり、全身のうねりを経絡(けいらく)でつかみ取っていきます。

 経絡(けいらく)ネットワークは、まず腎から始まり、肺経(はいけい)にその気を引き込み肺を満たし、手の親指外側に抜けて、示指(ひとさしゆび)の親指側から大腸経(だいちょうけい)へ流れ大腸を纏(まと)います。次に、大腸経(だいちょうけい)は体内で胃経(いけい)に通じて、胃などを纏(まと)って足の第二指外側に向かいます。そこから、足の親指内側に流れ脾経(ひけい)に入り、膵臓に戻ってきます。膵臓から心臓へ気を引き込み心経(しんけい)に流れ、手の小指の親指側に通じて、手の小指の外側へ流れて小腸経(しょうちょうけい)へ気を送り込み、小腸から膀胱経(ぼうこうけい)へ通じて背と膀胱を気で満たして、足の小指の外側へ抜けてから、足の小指の内側から足の裏に流れて腎経(じんけい)に入り、腎臓へ向かいます。腎臓から心臓の周りを纏(まと)って手の中指の親指側へ抜け、手の薬指の小指側に入り三焦経(さんしょうけい)に繋がり、体内で三焦(さんしよう)(「手少陽三焦経」参照)から胆経(たんけい)へ気を送り込み、足の第四指内側へ流れ、そして足の親指外側から肝経(かんけい)へ入り肝臓を纏(まと)って腎へ戻ります。※ここでの腎とは、丹田(たんでん)から腎臓周辺を纏(まと)い、体の中心を脳天まで貫き、体の縦と横の線を全て巡る気の流れの総称であり、腎臓だけではありません。

太極拳で、心身の内への感受性を高めて、経絡(けいらく)の気の流れを感じてみるなら、身体内における十二経絡(けいらく)の循環というネットワークの存在を知ることができます。十二経路だけでなく、それらを連携する奇経(きけい)と呼ばれる経絡(けいらく)もあります。経絡(けいらく)は現在科学でも検証され、経験的に実験された実証を証明しつつあります。経穴(けいけつ)は、そのネットワークの状態が体表に現れる部分でもあり、また、フィードバック(経穴(けいけつ)から経絡(けいらく)や内臓などの状態を変化させる)できるところです。その気が人間の生理を調整し、筋や骨を動かすことで、太極拳の套路(とうろ)は骨の髄まで練り込まれます。

立禅(りつぜん)や坐道(ざどう)・動功(どうこう)を通じて、そのネットワークの流通を、感受性を高めながら感じ取り、活性化していきます。

井穴(せいけつ)・・経絡(けいらく)の井戸のような場所

手足の指先には井穴(せいけつ)という経穴(けいけつ)があり、経絡(けいらく)学や太極拳では、気の出入りを総合調整する場所として重要視します。

太極拳では、動きの始まりから経過点、そして抹消(まっしょう)に気が伝わっていく長勁(ちょうけい)(長く伸びていく自然な力)という技術があり、そこには三節(さんせつ)(始まり、経過点、到達点の法則)という原理が存在します。井穴(せいけつ)は、それらの気の動きの抹消(まっしょう)または始まりとなっています。太極拳の点穴(てんけつ)術(急所を突いて攻撃する技術)や発勁(はっけい)には、すべてこの三節(さんせつ)が備わっています。

この井穴(せいけつ)を使って全身の経絡(けいらく)を活性化する技法として、練習の最初に必ず行う指龍(しりゅう)(基本技法「指龍」参照)という指運動が、武当派(ぶとうは)太極拳に伝わっています。指龍(しりゅう)は健康には欠かせない運動ですので、私たちはもっと厳密に経穴(けいけつ)や内蔵とのネットワークを理解して指運動を行います。指先を動かすことはとても健康に良く、また、脳の活性化やストレス解消にも効果が認められています。

井穴(せいけつ)は、経絡(けいらく)の末端であり、また入り口でもあります。人体から外界へつながる場所と考えてください。套路(とうろ)を行う場合は、このあたりから最終的に気が発せられ吸い込まれます。その感覚を捉えながら套路(とうろ)を行うと、とてもわかりやすい行気(ぎょうき)(経絡(けいらく)に沿って気と共に動いていく太極拳の技法)が行えます。

太極拳の練習前には、指を回して、体の隅々まで、細胞の一つ一つまで目覚めさせる気持ちで指龍(しりゅう)を行ってください。とても清々しいのびのびとした感覚になるはずです。

脾(ひ)の大絡(たいらく)・・腰の周りを網羅(もうら)する

脾(ひ)の大絡(たいらく)は、脾経(ひけい)の大包穴(だいほうけつ)から広く他の経絡(けいらく)に連なっています。この大絡(たいらく)は、鬆腰(しょうよう)(準備編「鬆腰」参照)で練り上げます。大絡(たいらく)とは、経絡(けいらく)の経を幹として、そこから分かれ出た枝のことで、生い茂った枝のようなイメージです。鬆腰(しょうよう)は、その枝(絡(らく))から幹(経(けい))を練り上げていくイメージです。全式で鬆腰(しょうよう)の技法は行われますが、その時にこの部分をねじ込んでいくイメージで、圧力を感じながら行う事で、全経絡(けいらく)に腰の発動(はつどう)が伝わっていくバネが生まれます。この基本修練技法は腰腿(ようたい)で行います。(基本技法「腰腿」参照)

胃の大絡(たいらく)・・体の中心の周辺を網羅(もうら)する

胃の大絡(たいらく)は、宗気(そうき)の通路として体の中心部を貫いています。宗気(そうき)とは、空気を吸って代謝し、また食べ物を消化するという人間の営みのエネルギーです。そのエネルギーによって、体を営んでいく強さを支える営気(えいき)と、免疫などを含め、体の外からの邪気から体を守る衛気(えいき)を造り上げています。胃の大絡(たいらく)は体の中心を貫き、脾(ひ)の大絡(たいらく)が体の周りを纏(まと)い、双方が連携して縦と横の微細な気の流れを練り上げています。動功(どうこう)としての太極拳では、甩手(すわいしゅ)の走勁(そうけい)(基本技法「甩手」参照)や、套路(とうろ)での動きの中での紡錘(ぼうすい)(基本技法「紡錘」参照)などを使用して、胃の大絡(たいらく)が絡(から)む正中線(せいちゅうせん)を鍛え上げていきます。静功(せいこう)では、立禅(りつぜん)や坐道(ざどう)の修練の中で、正中線に通る胃の大絡(たいらく)の気の流れを、気感(きかん)(準備編「気感」参照)にて練り上げていきます。

経絡(けいらく)の基本イメージ

両手を垂らして自然に立ち、体側(たいそく)に向いている手の掌心(しょうしん)を正面に開いた状態(小指を体に沿わせ、親指を外に開いた状態)で経絡(けいらく)の基本イメージを覚えます(項末の「全体経絡図」参照)。行気(ぎょうき)は、経絡(けいらく)を考えすぎると考えにとらわれてしまいますので、最初は大体のイメージを持つことから始めます。

ステップ1・経絡(けいらく)の概略をイメージする

まず、手の腹側3本と背側3本で合計6本、足の外側3本と内側3本で合計6本、12本の線を、次の【経絡(けいらく)の概略】程度で簡単にイメージを持っておきます。※胴の腹側の中心は任脈(にんみゃく)、胴の背側の中心は督脈(とくみゃく)、その他の経絡(けいらく)は、この中心を境にして左右対称にあります。

簡化二四式技法の各型における行気(ぎょうき)では、何度も丁寧に主な経穴(けいけつ)を詳しく表示していますので、まずその流れを套路(とうろ)の動きと共に覚えたら、この経絡(けいらく)図を見て細部まで覚えることが可能です。そのようにして覚えていくと、太極拳の武道の熟練者は実際に使える点穴術(経絡(けいらく)や経穴(けいけつ)を刺激して相手にダメージを与えたり、または活力を与えたりすることができる技法です)としても生かすことができます。太極拳の武道では、この経絡(けいらく)と経穴(けいけつ)を体で覚え尽くしていないと、効果的な発勁(はっけい)は行えません。もちろん経絡(けいらく)の流れを知っていないと、自身の心身の本格的な調整もできません。最近は科学的にも立証されつつある経絡(けいらく)は、人間が人間としてこの地球に存在してから、長い年月に身体に刻まれた水路のようなものです。体の隅々の細胞にまで気が巡る太極拳には不可欠な行気(ぎょうき)を、経絡(けいらく)や経穴(けいけつ)の知識と共に是非身につけてください。

以上 書籍/簡化24式太極拳で骨の髄まで練り上げる技法/より抜粋

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